きっかけ [采女]

日本中、いや世界中にコロナが吹き荒れ始めた令和元年。間もなく、海外どころか県をまたぐ移動すら自粛を求められるようになった。
これまで、ふらり一人旅を楽しんできた身には、この移動制限には辛いものがあった。かと言って、出かけたい気持ちも抑えきれない。さてどうしよう。

おや、私は世界遺産の町に住んでいたんだったっけ。住み慣れた古都の駅周辺を、改めて散歩してみようか。意識を変えればきっと違った気分で歩けるわ。何より、県を跨いでないもんね。
と、誰にともなく言い訳しながら、観光客の消えた街歩きに出かけた。

近鉄奈良駅から東向商店街のアーケードへ。この間はほんの数メートルなのに、長らく屋根がなかった。雨の日は駅地下から出て傘を取り出し、アーケードに駆け込みまた傘をたたむ。この手間の面倒だったことよ。行基菩薩噴水の上にできた透明の大屋根は、変わらない奈良の近代化の象徴だった。大袈裟か。

東向商店街は、東向と言うが南北に伸びている。生まれた時からずっと「ひがしむき」と呼んでいたので、これまで何の疑問も持っていなかった。門前町の名残りだとか何とか聞いた気がするけれど、忘れてしまったな。
商店街は南に向かって緩い下りになっている。溢れる外国人観光客で歩けなかったのが嘘のように、人とぶつかることもなく下っていけた。観光客相手だったドラッグストアは、速攻で店を閉じたっけ。お商売は稼ぎ時より逃げ時がより大事なのかも。

商店街を突き当たると、左斜めには高速餅つきで有名な中谷堂がある。いつも観光客が道まで溢れていたが、さすがにこの時は手持ち無沙汰な様子だった。なにせ日本人観光客すらいないのだから。
突き立てトロトロのよもぎ餅は諦めて、もう少し足を伸ばすことにした。(続く)


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