告げる告げない  [癌と経過]

 帰宅後、家族に結果を告げた。仕事や学業で家を離れた子供達にも連絡をした。忙しいだろうからとメールで告げたら、すぐに電話が鳴った。時差のある海外からも、既読と同時に返信が来た。
 幾つかの連絡先に電話やメールで事情を説明し、お詫びと共にしばらくの空席を伝えた。
同世代の友人たちにも告げた。もしかして検査から遠のいていたら、これをきっかけに検診に行ってくれたらという思いからだった。
 同じ病から立ち直った友人には一番先に伝えた。彼女の声が一番に聞きたかった。彼女が闘病中、私はどれほどの思いやりを持って彼女に接していただろうか。もしかしたら知らず知らずのうちに無神経な言動を取ってはいなかっただろうか。わが身になってやっと彼女の気持ちに添えたような気がした。

「乳癌になっちゃった・・・。」

 メールの文字から、彼女の綺麗な明るい声が響いてきた。
「大丈夫よ。お守り送るわね。」
 彼女がわざわざ足を運び願掛けしてくれたというお守りは間もなく届き、以来ずっと私のそばにある。


 あちこち速攻で連絡をしたにもかかわらず、検査結果を待っていた妹には連絡しなかった。告げないことが返事だった。妹が知れば母に伝わる。母がどれほどショックを受けるかを思うと、おいそれと話すことは出来なかった。いつ言おう。ずっと黙っているわけにはいかない。精密検査の結果が揃った時?入院日?術後?まさかね。


「告げる」或いは「告げない」

事実は一つなのに、なんと難しい事か。
 特に今回のようなステージでは、知識さえあれば冷静に対応できるレベルなのだ。心配なのはわかる。しかしそれは多くの場合、告知を受けた本人ではなく聞いた側の不安を刺激されたことによるものなのだ。告げたら最後、病名が独り歩きする。

「頼りにしているのに」
「あなたがいなくなったら、私はこれから先どうすればいいの」
病気のステージも高い生存率も、説明をしたところで無駄である。
 自分の感情に飲み込まれてしまう人を、そこから引き上げるエネルギーは私にはない。今一番大変なのは、当事者である私なのだ。
 自分の精神的な負担を増やすことは一切やめよう。

 そうして私はギリギリまで告げずにおこうと決めた。


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