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発見2 [癌と経過]

 マンモグラフィーのフィルムと紹介状を持って、セカンドオピニオンを求めた病院に行ったのは2月に入ってからのことだった。フィルムの入った薄茶色の封筒は大きいのに折りたたむわけにもいかず、扱いにくいことこの上ない。まぁ、持ち出す事は稀有だから仕方ないのか。でかでかと書かれている自分の名前を隠すように持ち、受付を済ませた。

 そんな苦労もむなしく、ここではもう一度マンモグラフィーを含めた検査を受けるのだと。

「えぇ~~、せっかく持ってきたのに!!」

 心で叫びつつ、言われるままに検査に向かう。この前の定期検診でも血液採取があったし、もはやどこで何の検査を受けたか訳が分からない。こういう時、データのやりとりを行えるシステムがあればいいなぁと思う。なお、検査室を転々としたにもかかわらず迷子にもならず、これも珍しい事だった。

 診察室に戻ると、マンモグラフィー含むその他検査結果が出ていた。解析度がすごい。前病院では見られなかった皮下の様子がはっきりと映っていた。引き続きエコー検査。また冷たい思いをするのかと思ったが、こちらのゼリーは人肌に温められていた。それだけのことだが、それだけのこととは言えない。我々は、検査する「ボディ」であるまえに生身の患者なのだ。エコーによる画像もそれは明瞭なものだった。表皮から判る大きさは5ミリにも満たない。
 検査部位を確定し、印をつけ、やっと穿刺吸引細胞診の準備が整った。細胞診は軽い手術であり、医師の診察時間が過ぎてから別室で行われる。お医者さんって体力勝負ですね。ならなくてよかった。なれないけど。お昼ご飯をゆっくりいただいてもまだ時間が余る。遅れるよりはいいかと思い、半時間も前から検査室の前で待つことにした。やれやれ、これが済んだら一日がかりの仕事が終わる。

 朝から延々と続く検査で疲労感満載の私に担当医は

「どうしました?いつもはもっと明るいのに。」

看護師「え、そうなんですか?」

医師「いや、そうかな~って思って。」

先生、先生と会うのは今日で二回目です・・・。


 検査結果が出るのは二週間後。何でもないこと証明のために受けたつもりだったのに。

発見 [癌と経過]

その日は定期検診の予約日だった。なんということない、年齢とともに現れるあれこれの、面倒におもいつつ受ける検診のはずだった。
取り出したプラスチックの診察カードが受付の機械に吸い込まれる。いくつかの「既」診察科が表示される。「婦人科」がひときわ明るく光って見えた。私はその画面を押した。

「?」


私いま何をした?予約は別の科なのに。



・・・ま、いいか。昨年は忙しくて自分のことどころではなく、婦人科を受診した記憶がない。これもいいきっかけかも知れない。ついでよついで。「ついでの餅には粉はいらず」と誰かも言っていた。餅じゃないけど。自分の行動に疑問を持ちつつ、本来の受診科のボタンも押した。

いつもの診察が終わり、いつものように医師に叱られ、お薬を飲んでいるのに血液検査の結果は大した変化もなく、「ちゃんと飲んでますか?」と問われ、お薬の残数確認もされたり・・・。
飲んでますって。たまに、けっこう忘れますけど。

「次は婦人科ですね?何かありましたか?」

「えぇ、まあムニャムニャ」

ジャイロ機能が壊れているといわれるほどの方向音痴で、特に同じような造作の病院内部ではまともに目的地に行きつくことはない。右に行って左に折れたら多分受付だから通り越して・・・え~と案内板によると現在地がここだから・・・なのに板から目を離したらふりだしに戻る。いつもそんな感じ。東西南北、なんですかそれ。方向は前後左右でお願いします。
それが、今回はまるで歩く歩道の上を宙に浮くかの如く進んでいく。
「今日の私は何故迷わないの?」不思議な感覚とともに、私の体は一直線に婦人科に「運ばれて」いった。

マンモグラフィーの経験がある方はお分かりだろうが、挟まれて万力で締め付けられ、目の中に星が飛ぶほどの検査の痛みは、「セット」である。検査のため出来るだけ薄くした方がいいらしく、看護師さんの「痛かったら仰ってくださいね」という優しい言葉を聞きつつ、万力は締められ続ける。
「痛いです!」
「え、痛いですか?」
それだけ?
そして検査は進むよ何処までも。


診察室に戻ると、医師の前に張り出された診断画像には、極小に光る何かが映し出されていた。以前検査した時の画像と比べても、前にはなかったものだった。
医師の少し曇った顔に嫌な気はしたが、黙って引き続きエコー検査のため診察台に載る。皮膚との接触を良くするために透明なゼリーが絞り出される。冷たいのよねこれ。何度か経験しているので身構えるが、やっぱり心臓がキュッとする。マンモグラフィーに映った光る腫瘤の位置あたりをモニターで見ながら、医師はプローブを滑らせて探っていく。

「・・これか・・・。」

触診では到底見つからなかったであろう、表皮から少し奥にそれはあった。

「これですか?」

よくある脂肪の塊のようなもの。乳腺が発達している時のでこぼこと変わりないようなもの。ひとつやふたつ、体のどこかにあるような小さな腫瘤にしか思えないのだが。

「診断は、医師二名ですることになっているので」と仰るので、その日は帰宅した。


翌週の診断結果は


「両性とも悪性とも判断できず」


・・・それだけ???一週間待ったのに?

どうやら診断には五段階あるらしい。

1 何でもない
2 何かあるけれど良性(白)
3 何かあるけれど、良性か悪性かわからない(灰色)
4、5 何かある よろしくない(黒)

あとで調べたところ、上記は細胞診によるクラス分けのようで、マンモとエコーではこれ以上は診断の材料がなかったのだろう。

「どうしますか?針生検をしますか?それとも、このまま様子を見ますか?」

針生検というのは、注射で該当箇所の細胞を採取して培養し、検査するというものらしい。先週のドクターの顔を思い出し、自身の年齢を考えつつ、経過観察でも多分大丈夫だろうという能天気な考えを捨てて

「・・・セカンドオピニオンをいただきに行ってもいいでしょうか?」

と返事した。

何でもないなら何でもない結果を見よう。もし万が一、十万にひとつ、まぁないだろうけど、仮に引っかかっても、そのまま対処できるようにと、入院手術の出来る大病院への紹介状をお願いした。

担当医は快く対応してくださった。紹介状と共に診察予約まで取ってくださった。これはありがたかった。次の病院に行って知ったことだが、セカンドオピニオン先の乳腺外科は、初診の外来を受け付けていなかった。急遽、予約患者の間にねじ込んでいただけたというわけ。
そんなお手間をかけていたとは知らず、その日は予定があるからと、いったん決まった診察予約を一週間先送りしてもらうという暴挙に出てすみません[m(_ _)m]。

                         その時は、そのくらい呑気に構えていたのだ。

告知 [癌と経過]

首から上のどこかで、パチンとスイッチの切れる音がした。



「今日はご家族は?」



「・・一人です」



しばらくの沈黙の後、これまでは明るかった担当医の口から低い声が出た。



「残念ですが、癌です。」


切れたのは、感情のスイッチだったようだ。

医師はどこからかA4用紙を取り出し、口頭で説明しながら病名と治療方針を書き記し始めた。スレンダーでおしゃれな女医さんの指先に握られたペン先から、賢そうな文字が白い紙に刻印されていくのを、私は只々見ていた。

「・・大丈夫ですか?」

「・・はい。」



これは現実なのだ。

担当医は余計なことは一切おっしゃらなかった。手術日を告げ、A4用紙を渡された。

待合室に出て、看護師さんから今後の予定を聞く。続く精密検査の日程、入院時に必要な物品。多分同年配の彼女はひざを折り、私の目線の下からそっと入り込むように説明をした。


「・・大丈夫ですか?」


「・・はい。」

あぁ、放心状態に見えるのだろう。私の様子を気遣いながら、柔らかい声で必要な説明は続く。

「お世話になります。よろしくお願いします。」とソファから立ち上がった。術後必要なので、入院までに院内で購入してくださいと言われた物品を買いに、私は購買部に向かった。そして会計を済ませたのだろう。そこはよく覚えていない。

「運転に気をつけること」それだけ腹をくくり、向かったのは美容院だった。


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