放射線治療 下旬 [癌と経過]

 四週目にもなり、残り日数が減るにつれて、疲労感の蓄積が目に見えるようになってきた。放射線医からは 「あともう少しですので頑張ってください。」と言われるのみ。わかってるんですそれ以外仰れないことは。でも問診は記録されているようなので、資料として後々残れば何かの足しになるかと思って「しんどいです~~」と言ってみる。普段泣き言を言わない私の、唯一甘えられる数分だった。

 照射の後半戦は「あと何回」と、一回一回を終えることが目標になるほど倦怠感は増していた。マジックで囲まれた照射部位は黒く変色し始めていた。健康的な日焼けとは無縁の薄黒い皮膚は熱を帯びるようになり、患部に当てた冷却剤はすぐに融けた。最低限の家事を、それも野菜を剥いては横になり、炒め物ひとつしてはソファに直行しながらこなした。夜の静けさのなかベッドで目を閉じていると、背骨がまるで流木の如くになり、深い波に飲み込まれていくような気さえした。(詩的だがこれは立場上仕方ない。こんな時も貪欲なのよ)

 そうして迎えた最終日。ダウンジャケットは薄い春のコートに変わっていた。お化粧をする気力はなかった。家を出る前に覗き込んだ鏡に映る自分の頬は、1㎝くらい力なく下がってみえた。一気に老人になったような顔に驚きを隠せなかったものの、今日で終了というのは飛び上がるほど嬉しかった。

その後少しずつ、薄紙を剥がすように体調は回復していった。

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