ひっそりと [采女]

身を投げた猿沢池を見るに忍びないと、社はひと夜のうちにくるりと背を向けたと伝えられる。
今でこそ、新しくなった朱塗りの塀に囲まれて、縁結びだのなんだのと看板でアピールしているが、采女神社は少し前までは、ひっそりとした佇まいにあった。入水した池に背を向けるというよりは、都の方を向いているような。拝む人の姿を隠すような造りにもみえる。通常門が閉じられているのは、むやみに人を寄せつけまいとしているのだろう。

薬による自死ではなく入水したという話。女の入水によって穢れた池を離れ、春日山の南に移った竜が、そこにも死体が捨てられた為にその地を去ったという話。池も山も藤原一族に関係する場所だ。池から竜が移動したという春日山の南には、小さな祠がある。死体が捨てられた場所を指すのだろうか。名も知れぬ死体なら、祠があるのもおかしな話だ。采女と死体はおそらく同一人物なのだろう。そうと悟られないように死因をすり替え、埋葬場所を竜の姿を借りて後世に伝えたのでは。あちこちに、それとはなくその存在を匂わせながら、誰と言えずに100年近くの年月を経て、やっとその人を祀ることができたのだろう。大いなる権力者の力をもって、ひっそりと。

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